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35 35. To Noston Country

    気絶してしまったディオンは、以前クレアが魔力竜巻を浄化した時と同等のダメージを負っているのだという。


    後処理は王立学校に任せて、一日の授業を終えたクレアは馬車で王宮へと戻った。


    自室に荷物を置いて制服から着替えるとすぐ、ヴィークの執務室へと向かう。


    「……失礼いたします。……ってあれ、ヴィークはまだ戻っていないの?」


    一足先に帰ったはずのヴィークは不在で、そこにはキース、リュイ、ドニの3人だけがいた。


    「お帰り。ヴィークは今日の件も含め、諸々を報告に国王陛下のところへ行ってるよ」


    キースがニッと笑う。


    「お帰り、クレア。……何ともない?」


    リュイは心配そうだ。


    「私はね……でもディオン様が……。複雑な心境だわ」


    クレアは、肩を落とす。


    今回の件は完全にディオンの身から出た錆としか言いようがないが、恐らく彼は当主の命令で動いていたのであろう。それを考えると、クレアは彼の不幸に同情する気がしなくもなかった。


    何より、クレアは今日初めて人が魔法によって気絶するところを見た。それも少なからずショックだった。


    「でも、何で魔力差が分からない相手に『魔力の共有』を放つかなぁ。妹君のディアナ嬢もアレな感じだったけど、やっぱあの家の双子はちょっと変わってるよね」


    パフィート国の各地を遊び歩いているドニは、双子の片割れ、ディアナに関しても知っている風で呟く。


    「今後の方針が決まった」


    4人で話していると、国王陛下への報告を終えたヴィークが戻ってきた。駆け足で戻ってきたらしく、息が弾んでいる。


    「それで、何と」


    キースが急かすように聞く。


    「ミード伯爵家については、国王の預かり案件となった。経緯や事態の重大性を踏まえて、俺が感情で動くよりも国王が直々に動くべきとの仰せだった」


    ヴィークは、少し悔しそうに話す。それもそのはず、クレアの母親がリンデル国王女だと判明してから数か月、ヴィークは時間を見つけては独自に調査を行ってきた。


    やっと真相に近づく糸口を見つけたところなのに、直接手が下せないもどかしさが表情に現れていた。


    「……しかし、クレアの身の安全を守るため、国王陛下は時間をかけても必ず解決すると約束してくれた。時間はかかるが、待っていてくれるか」


    「もちろんですわ。ありがとうございます、ヴィーク」


    クレアは微笑んだ。


    「……それでだな……」


    少しの間、クレアと見つめ合って顔を赤くしたヴィークが、くるっとキース達側近の方に向き直って言う。


    「別件だが、来月の長期休暇期間中に、ノストン国を公式訪問してはということになった」


    「!」


    故郷の国名に思わず反応したクレアに、ヴィークは言う。


    「ノストン国は大切な隣国だ。その隣国の名門公爵家の娘、しかも第一王子の元婚約者を何の相談もなく妻として迎えることは、将来両国間に摩擦を生む可能性がある」


    「なんだ、随分急いで帰ってきたと思ったら、こっちの話が本命か」


    ドニがヴィークをからかうような視線を向ける。


    「しかし……確かにそれは俺も気になっていた」


    キースが同意する。


    「……私がいなくなったことなど、誰も気にしていないと思うわ」


    やり取りを見ていたクレアは、遠慮がちに口を挟む。


    クレアからすると、ノストン国での自分の存在はぼろ雑巾のようにしか思えなかった。ノストン国やマルティーノ家にとって、自分は期待に応えられなかったばかりか才能に溢れる妹を虐め、さらにその罪を追及される前に逃げ出した存在なのだ。


    「そんなことない!……まあ、ノストン国の人達に見る目がなかったおかげで僕たちはかわいいクレアと出会えたんだけどね」


    ドニにしては珍しく強い口調だ。


    「そうだな。経緯を思うと腸が煮えくり返るが、そこだけは感謝しないとな」


    ヴィークは頷いて続ける。


    「訪問の目的は、来年の春に行われる俺の立太子の式典への招待状を渡すことだ。これから調整するが、滞在は3日間程度になると思う。折を見て、ノストン国王にクレアを娶ることを報告し、ついでにマルティーノ家への挨拶も済ませてこいと国王は仰せだ。結納の品もたっぷり持って行けと」


    「それは何だか……面白そう。楽しみだね」


    リュイは意味ありげに含み笑いを浮かべている。


    「しかし、そういうことならクレアも一緒に行くべきなんじゃないか。マルティーノの名を隠していたのは、追っ手を警戒してのことなんだろう?今後はパフィート国が背後にあることを認識させるためにもいい機会だと思うんだが」


    クレアがノストン国で植え付けられた劣等感を知っても、キースはどこまでも真面目だ。


    「俺は、クレアが傷つく可能性があることには反対だ。だからクレアは連れて行かない」


    「キースは僕たちよりおじさんだからね。堅すぎるよ、キースは」


    ヴィークとドニはクレアの心情を考えてキースの意見に反対しているが、クレアにもこの問題が自分の我儘を押し通せる性質のものではないことは十分よく分かっていた。


    (……そんなことない。キースの言う通りだわ。ヴィークと婚約することを決めたのに、逃げていていいのかしら)


    考え込むクレアの心を察したように、リュイが優しく聞く。


    「クレアは、どうしたい?」


    (……!)


    クレアは一呼吸置いてから、答える。


    「私も一緒に行きたいわ、ノストン国へ。……それに」


    そして、首を傾げて続けた。


    「本当は、国王陛下から私のことを連れて行ってこいと言われたんじゃないのかしら?」


    「……バレたか。クレアは何でもお見通しだな」


    一瞬、バツの悪そうな顔をしたヴィークに向かって、クレアは令嬢らしく言う。


    「私は、大国パフィートの王位継承者であるヴィークと結婚することがどういうことなのか少しは分かっているわ。私に配慮して貴方が判断を鈍らせるのは不本意よ」


    ドニが、ヒュー、と口笛を吹いた。


    「それに」


    クレアは満面の笑みを浮かべて言う。


    「また皆と旅に出られるなんて、とってもうれしい」


    ―――――


    2週間後。王立学校が長期休暇に入ったその翌日、クレアはヴィーク達に付いてノストン国へ向けて出発することになった。


    「……すごい。こんなにたくさんの方たちと一緒に行くのね」


    馬車の窓から身を乗り出して隊列の長さを知ったクレアは、驚く。


    「ああ。半年前はプライベートだったが、今回は国王陛下からの書簡を携えての正式訪問だ。……クレアにとっては窮屈かも知れないが、我慢してくれるか」


    「全然窮屈ではないわ。リュイと一緒に馬に乗れないのは残念だけれど……旅はとても楽しみ!」


    ヴィークと2人、馬車で向かい合って笑うクレアを、リュイが馬車の横の窓から覗き込んで微笑む。


    「もう出発するみたい」


    クレアとヴィークが乗る馬車をリュイとドニが馬で挟み、それをキースが先導して、一行は出発した。
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